2015年1月27日火曜日

テンカラ、開眼? その8

   日本のいにしえの秘技

モグラの尻尾の毛鉤

偶然、図書館で面白い本を見つけました。「宮本常一とあるいた昭和の日本」。発行は、農山漁村文化協会。1960年頃の、高度成長期の農村漁村の昔ながらの生活が変化したり、失われる過程で、かろうじて残っている伝統的な暮らしぶりや行事を取材した紀行文だ。



その東海北陸2に、八木洋行さんというライターが、静岡県の大井川上流の山村地域を旅した記録がある。
田代という集落で、滝浪さんという家で、ヤマメの混ぜご飯をごちそうになります。ヤマメは、祭りや来客の時の、貴重なごちそうだったようです。

本文から。
テンカラ釣り
滝浪さんは、モグラのしっぽで毛鉤を作ります。鉤にモグラのしっぽを通して乾燥すると、しっぽの毛がふさふさして毛虫のような具合になります。これだけで、結構ヤマメが釣れるのだそうで、田代には古くからあったといわれます。毛鉤の釣りをテンカラ釣りといいます。テンカラ釣り用の竿は、スズ竹ニ本のつなぎ竿で、三メートルほどのものを使いますが、手元のグリップを桐で作り、形態は近代的な西洋風のものと変わりません。小河内の望月繁福さん(明治31年生)が、テンカラ用の竿作りの名人でした。昨年の夏、おしくも他界されましたが、生前作っていただいた竿は、見てくれはもう一つですが、腰の具合はなかなか良く、六メートルのラインを充分とばせます。それに穂先が尻手からしまえるようになっていて、谷間を歩くにはこれが持ち運びに便利で、気に入っています。~略~


モグラのしっぽの毛鉤! 日本のテンカラ毛鉤と言えば、ニワトリがほとんどで、あとはキジ、スズメなどの鳥だ。モグラのしっぽの毛鉤は、アメリカやイギリスにも、あまり無いのでは、と思います。
しかもタイイングするのではなく、鉤に通して乾燥させて固着するというのが、ワイルドだ。見た目は、ウーリーワームに近いのかもしれない。釣りの指南書ではないので、毛鉤の写真は載ってない。現物をぜひ見たかったです。もしかすると、水に濡れると、しっぽから、味やにおい成分が出るのかも?

その9に続く


2015年1月17日土曜日

テンカラ、開眼? その7

   秘技? ライゼンリング リフト

ニンフの達人たちの本の文中に、ライゼンリングという人物の名前が何度か出てくる。この本が作られた頃には、彼はすでに亡くなっていた。だから、残念ながら、彼自身の原稿は、この本には無い。
ただ、ソフトハックルの釣り師として有名で、ライゼンリング リフトという技で釣っていたらしい。
彼の釣り仲間のハイディさんとエド・ザーンさんが、思い出話とともに、解説してくれる。

エド・ザーンさんは、次のように書いている。ふたりで川岸に腰をおろしながらの会話から。


わたしは礼を言って、新しく出版されたかれの本をちょうど読んでいるところだと言った。その本でかれは、ウエットフライ・フィッシャーマンは、フライを自由に流しながら、しかもフライとの密接なつながりを保持しなければならない、と主張していた。そこでわたしは、「どうすれば、フライを流れのままに自由に流しながら、しかも密接なつながりを持つことができるのか。現実には、つながりを保とうとすれば、ドラッグが生じるのではないか」と質問した。
「見せてあげよう」とライゼンリングは言って、流れの速くなるプールの下流際におりていった。それまでわたしが考えてもみないほど水際に接近して、かれは毛のうすいウエットフライを2~3ヤード上流に振りこんだ。そのまま竿先をたかく保持して、正面にフライを通過させ、下流側に流してやった。全体として流した距離は、せいぜい、15フィート(4.5メートル)だったが、その間フライは明らかに自然に流れ、マスがフライに触れたとすれば、必ずジムはそれを感じるなり、見るなりしたにちがいない。実演がおわると、かれは、同じテクニックで釣りながら、下流へくだっていった。
~略~。

このあとエドさんは、ジム・ライゼンリングの真似をしたところ、師匠よりもたくさん釣ってしまった、ということだ。また文中で、意図的に、あるいは偶然に、フライが上昇するときに、魚が反応すると書かれている。
ハイディさんは、ライゼンリングが竿先を高くしていくことで、フライの毛先をふるわし、動かし、水面に昇らせ、同時に虫が逃げる様子を表現するのが、ライゼンリング リフトだと書いている。

魚のいると予想した場所に自然に流してから、竿を上げてちょっと誘いをかける。ただこれだけのことだけど、人間は西洋でも東洋でも、似たような毛鉤で、似たような操作を、マスを相手にしていたみたいです。マスの眼には、似たような人間に映っているのだと思います。「棒を持ったロクでもないヤツ~」と。

その8に続きます。



  

2015年1月2日金曜日

テンカラ開眼? その6

指南書

毛鉤を自然に流すには、糸にたるみが必要。水中を沈みながら、自然に流れる毛鉤。魚が食いついたのを感知するには?

それに悩んだのは、日本人だけではない。ヨーロッパやアメリカの釣り人も、悩んだ。その苦闘の歴史を読めるのが、「ニンフの達人たち(THE MASTERS ON THE NYMPH)」。訳 星野亮介、発行 TIEMCO


1981年に、日本語版が発行されたので、英語版はもっと前に出版されたと思います。
アメリカとイギリスの釣り人18人が、それぞれの釣り方を、紹介しています。レフティー クレー、フランク ソーヤー、カール リチャーズなど、有名な釣り人が、投稿しています。

それぞれが独自に研究して、到達した釣りのスタイルです。それらの違いは、川の形状の違いによるものだと考えられます。落差のある山岳渓流、平地の里川、湧き水で水草の多い川、川幅が広い本流、それと湖。それに合わせて、釣り方も仕掛けや竿の種類も、まったく別のものになります。

また、狙う層によっても、仕掛けは変わります。水面直下なら、日本のテンカラと同様のフライを使います。底近くだと、フックにウエイトを巻いたものから、ツイストンという板オモリを釣り糸に巻きつけたり、ファーストシンキングラインを使う釣り方まで教えてくれます。

私の好きなテンカラに近い釣り方は、また次回で。
2015年も、もう少しフライロッドでのテンカラ釣りが上達したいものです。